私が最初にまちづくりに関わったのが、藤沢市西北部に位置する御所見地区の都市近郊農業を地域情報化で活性化する取組でした。御所見まちづくり推進協議会、西北部総合整備事務所、御所見市民センター、研究室の教授、先輩・同期・後輩の協力があって、100を超える地域の魅力を探し出し、その魅力を充分に楽しめる散策コースを作成し、コースの特徴が活きる季節にウォーキングイベントを開催しました。五年間の取組成果は、藤沢市公式の御所見地区総合マップとして納品しました。
地域の情報を広い観点から企画にする授業
2010年6月、神奈川県、藤沢市、慶應義塾大学、相模鉄道株式会社の4者により「いずみ野線延伸の実現に向けた検討会」が設立されました。設立前から準備が進められ、慶應義塾大学SFC では学生のアイデアをまとめるために「都市と地域の未来」と言う授業が2010年開講されることとなりました。御所見地区での実践研究を進めていた私も、2011年から2015年までTA/講師として参加し、学生に地域を見る目線や地域の一風景を紹介しながら、いずみ野線延伸予定地域の将来像を描く手伝いをしました。後半には、藤沢市都市計画課・西北部総合整備事務所から職員を招き、いずみ野線延伸計画関する市政方針や調査・計画策定状況を教わりました。毎回授業の最後にはチームを組んだ学生達の提案の発表会を開いて、御所見まちづくり推進協議会・藤沢市都市計画課・西北部総合整備事務所の方々をお呼びしました。学生が地域について見聞きして作成した地域の将来像について、地域の現場から多角的な情報や意見を交えて議論する機会として最終発表会を開催し、6年間で81の学生アイデアが制作されました。
研究を具体化するために地域に根差した活動の再開
この「都市と地域の未来」で学生と地域の繋がりを結ぶ中で多様な学びがありました。地域に関わる実績を持つ事、継続した取り組みへの要望、公式な学校の立場の表明、自治体と大学を結ぶ仕組み作り、過去の学生が築き上げた置き去りにしたわだかまり等、良いこと悪いこと様々です。この学びを元に、2015年の受講生のアイデアを具体化するために、遠藤地区での実践に参加することとしました。学生と共に遠藤まちづくり推進協議会/遠藤地区郷土づくり推進協議会に相談し、話し合いをした結果、遠藤地区総合マップの英訳版の作成、遠藤の農産品を使った食事メニューの開発、農地をお借りして生産体験に取り組むこととなりました。これらの取組を通じて、学生グループYajin、 モッタイナイトとも合流し、玉村雅俊研究会でフードロスプロジェクト、長谷部葉子研究会にCommunity Development Project (CDP)につながったと聞いています。
まちづくりの事業化という経営
地域住民、自治体、大学の協働と計画を年単位で繰り返しす中から、いくつものアイデアが出てきました。そのアイデアの実現可能性を、
◆地元組織の需要
◆想定するターゲット
◆各種情報を整理するICT の運用権限
◆手持ちのリソース
◆始めるまでの難易度
◆地元案内人・協力者
◆法制度や地域の慣習等、
これまでの実践で学んだ視点から整理・検討しました。そこから浮かび上がったいくつかの新事業は、既存の組織を活かす形と、新たな組織を立てて進める形の両方がありました。
住民が地方自治体の行政政策に参画する最初期の「まちづくり」で描いた計画を実現する新たな組織は、農山村や商業地域の活性化を目指す「まちづくり」の脈絡に連なり、特定領域の新事業創造を行います。新組織はその経営を安定させるために、時に出発点であるまちづくりから離れて、社会的企業やアントレプレナーとして経済活動に注力します。この事業の安定化という観点からみると、新組織よりも、長期に渡り地域―特に中心市街地や地方都市で業を営む地場産業に焦点が当てられて、そのまちづくりへの寄与貢献を評価する論調も出ています。
また、大学の研究者として地域のまちづくりに関わると、地域の発展に寄与するには一研究室では限界があり、組織と組織の関係で取り組むことも必要とされてきます。まちづくりに関わる大学のリソースを使った地域との協働や地域貢献は、大学組織の経営の一つとして要望されていることから、今後その事業に関する一層の研究が必要になることでしょう。
郊外/近郊農業地帯におけるまちづくりの事業化は、経営と同様で、常に資本や環境を読み解く研究をしながら、実践の意思決定を不断に進めるものだと学びました。
参考文献
いずみ野線延伸の実現に向けた検討会とりまとめ(平成 24 年 6 月 11 日 発表資料)
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/23508/444904.pdf (2022年8月13日アクセス)
戸所隆 (2010) 地域づくり叢書1 日常空間を活かした観光まちづくり 古今書院 東京 初版 182p.+viii
松下重雄・三橋伸夫 (2012) 英国グラウンドワークの近年の動向と新たな活動展開-社会的排除問題や低炭素社会づくりへの取り組みと社会的企業 日本建築学会計画系論文集 Vol.77(674) 795-803
井上正良・長瀬光市 (2013) 人を呼び込むまちづくり―魅力的景観を生み出す5つの技法― ぎょうせい 320p.
林琢也 (2019) 地域づくりの現場で学ぶフィールドワーク教育の成果と課題―郡上市和良町を事例に― 経済地理学年報 Vol.65(1), 45-60
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