2012年から2016年までの約5年間、博士課程にいながら「森創社」という屋号を名乗って、横浜市山手地区の緑のまちづくりに参加させていただきました。
 元々藤沢市の鵠沼地区と同様、東京郊外に立地する高級住宅地で、建築協定や住民協定等を住民×行政の協働でかけることで住環境を保全していることで、類似した実践研究を実施できると思ったことでした。
 【山手まちづくり推進会議】に直接連絡をして、実践研究として活動への参加を相談した所、みどりのまちづくりを専門で行う新設の組織「山手のみどり会」をご紹介いただきました。

 「山手のみどり会」が発足し、メンバーとして東部町内会、西部自治会、学校法人、西洋館等から有志の方々が参加され、サカタのタネさんが技術相談役としてしばしば会合にも顔を出されてました。
 西洋館の外観の植栽、横浜気象台・外国人墓地の隣に立地する、元プールがあった99番地を公園にする計画が発表されました。そこで、山手のみどり会を中心に公園の姿を設計することとなりました。

プール解体後更地となっていた99番地

 設計には、山手のまちづくりならではの公園の在り方を探して、横浜山手の地区内で潜在自然植生、地域性種苗を残す緑地を探して、古地図、航空写真、工事履歴、書籍、インタビュー等から情報を収集、同時に山手地域の日本人・外国人の暮らし方、ライフスタイルに関する歴史を文献を掘り起こして、山手と緑の関係を浮き彫りにしました。

 こうして、現在残っているみどりの物語を「山手らしい緑」と称して、みどりのまちづくりの根幹に据えました。
 この山手らしい緑を育てて公園や住宅地の植栽に使うまでには、以下の流れがあると考えました。

◆資源調達
 種子を拾う、大木の下で実生で育ちいずれ枯れる小木、剪定した枝、景観上不要な植栽を移植する等、枯損木を腐植に返す循環とは異なる形で、ごみ・ロスとして扱われるものを資材となるよう活かす循環へと送り出します。山手地区内の公園・住宅・学校等、まちづくり協力者の庭に生えている植物から、資材を調達します。

◆生産・養生
 集めた山手の緑の資材は、色々な技術で育てられます。種を拾ってきて発芽させる実生、枝をもらって苗木に仕立てる挿し木・取り木・接ぎ木、歴史的な記念樹等があれば、数年をかけて根回しして移植する方法もあるでしょう。様々な手法で育成・養生され出荷できる形に仕立てます。
 昔は山手地区でやまゆりを育てる圃場があったそうです。しかし今日では、どこに圃場を置けるでしょうか?農地が無い山手地区で、植物を育てる場所を借りることはできなかったため、まちづくりの方々にご相談して庭の一部をお借りしました。

公園に植栽するあじさいを親木から増やしている公園内圃場(鵠沼)

◆流通・PR
 庭に緑を植えましょう、というコンセプトには例えば生物多様性、混植・密植、5本の樹、グリーンインフラ等のキーワードがありますが、山手地区でのみどりのまちづくりは「山手らしいみどり」を広める広報活動としての意義も持ちます。
 ポットに入れる、素掘りでそのまま箱詰めする、コモやワラで巻く等、苗木を流通する方法も複数あります。みどりのまちづくりにより地元で作った苗木を地元で使ってくれる機会が増えれば、流通コストは下がります。一方で「山手らしいみどり」はどの地域まで、どの品種までを採取範囲とするのか予め決めておくことで、流通の広がりを創り出すことも可能になります。

◆植栽
 生産・養生・流通してきた山手らしいみどりを植えます。日当たりや風当たりを考慮してどの植物をどこに配置するか、植える時期、樹形・枝ぶり、根の張り具合と土壌の状態等、様々な条件を鑑みて上手な植え方を選びます。

◆利活用・維持管理
 どこにある緑と同様に複合的な価値を有する山手らしいみどりは、そこにあるだけで自然の癒しをもたらす景観やヒートアイランド現象の緩和の効果だけでなく、趣味としてまた暮らしで使う素材として使われるものでもあります。実や葉を使うから、車にぶつからないよう、路上に落ち葉が溜まらないよう、剪定して大きさ・形を整えられてゆくうちに、地域の一員として馴染んでいきます。そしてみどりの持つ価値は長い年月、多岐に渡り、所有者・地域に提供されていきます。
 とは言え地域で大切に育てられたみどりも、流行り廃りがあったり、また所有者が代わる等あれば、欲しいものへと植え替えられてゆきます。保存樹木、保存生垣等の公共の補助金を使ったとしても、大木を残しておきたい地域の想いに対して、個人所有者は維持管理の費用や家の利用を考えて伐採するケースも多く見られます。このような事態に対して、「みどりを保持すること」を最終地点として捉える考え方を、「みどりを移して新たな価値を加えること」へと転換することが必要ではないかと思われました。

 このような横浜山手でのみどりのまちづくりを経験したことで、外からの種の混入を少なく抑えながら恒久的な維持管理に費用をかける公共的緑地の限定的な定義を越えて、循環型のみどりの価値をまちづくりとして行うために、【地域資源植生】という考え方を思いつきました。

◆謝辞
 横浜山手での実践研究を進める上で、日本植木協会、愛植物設計事務所、5×緑、プランタゴ、富士植木、日本大学生物資源科学部、矢澤ナーセリーの皆様からご協力、ご助言をいただきましたこと、深く御礼申し上げます。

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