COVID-19 が全てを変える中、2018年から始めた健康のまちづくりを推進する慶育祭も多分に漏れず、その取組を現地開催からオンライン開催に変更することとなりました。

 Q. 慶育祭を主に楽しんでいただきたい二つのメインターゲットの内、70歳代以上の方々がオンラインで慶育祭に参加できるのか?
 A. 病院での患者さんとのやりとりを鑑みて、おそらく多くの方が難しいだろう

という予測の下、熟年層向けのスマホ講座を試みてきました。
 2020年10月は藤沢市鵠沼地区にある登録有形文化財【尾日向邸】を借りて三回開催しました。2021年7月からは藤沢市打戻地区にある【古民家ごんばち】で三四回開催しました。2021年6月には藤沢市長後地区に立地するモデルハウスに出張して開催しました。現在まで蔓延しているCOVID-19 によってデジタル社会に向けて拍車がかけられる一方で、COVID-19 によりデジタル化を止める状況も生まれており、情報格差の中に陥ってしまった方々もいました。そのような方々にとってスマホ講座は、新しい交流を作るきっかけともなりました。

鵠沼スマホ講座
スマホ講座@尾日向邸

スマホを習う方法―学校方式と塾方式

 これまでの総務省による情報化への取組の積み重ねに加えて、2021年にはデジタル庁が設置され、誰もが便利な情報技術を活かして暮らしを豊かにするデジタル社会の実現に向けて、日本国内では様々な施策が取り組まれています。その施策の一つにスマホ講座があります。企業・大学で取り組まれたスマホ講座は、カリキュラムを使って講師が熟年層に一つずつ教えてゆく形式で行われてきました。カリキュラムはスマホを起動する等の入門から、スマホで出来る行政手続き等の応用まであります。私はこのようなカリキュラムを「学校方式」だと思います。

 一番最初にスマホ講座を開いた時、カリキュラムを用意していました。しかし参加者の方々は年齢も異なり、スマホに触れる時間数も異なり、スマホを使う関心も異なりました。また一部の方は、スマホの習熟度が異なるため、従来の講座では聞きたい事を聞けなかったという悩みも抱えていました。スマホ購入時にもらうガイドブックや一般書籍で学ぼうとしても、あまりに機能が多すぎて逆に覚えられず途中で断念した方もいました。そこで私達は、カリキュラムよりも一人ひとりの参加者との対話の中から、スマホに特有の操作を覚えたり代行して悩みを解消する方法を採りました。私はこれを「塾方式」だと思ってます。

スマホ講座の意義

 スマホ講座は、慶應義塾大学SFC 渡辺光博研究室「健康・幸福のまちづくり」研究会から有志学生の協力を得て開催しました。講座前後のスマホ習熟度、講座でスマホに関する質問、参加回数、会話の特徴を整理してみると、講座参加者はスマホを学ぶだけでなく、大学生や友人との交流の機会を目的としていることが分かりました。

スマホ講座の様子
夫婦、友達と一緒に楽しく学ぶスマホ講座@古民家ごんばち

参加者の特徴分類(2021年7月~2022年1月までの講座20回から整理)

分類初回時
習熟度
参加
回数
最終回
習熟度
主な
質問内容
会話の特徴参加の目的
A×2回
以上
LINE
スマホ基本機能
講座内で会話が
多い
スマホ学習
学生と交流
B×1回
のみ
LINE
スマホ基本機能
疑問点が明確スマホ学習
C1回
のみ
セキュリティ
LINE応用
その他アプリ
疑問点が明確スマホ学習
D4回
(最大)
古民家の空間
交流が目的

 スマホ講座では、一度の参加で悩みを解決できる方もいますし、何度も繰り返し練習して体で覚える方もいました。車の雑誌を読んでいる方はQR コードの読み方を知りたくて参加されてきました。日常で利用したい機会がある人はスマホの使用頻度も高く、講座参加回数は少ないです。
 日々の使用頻度がそこまで多くない方達は、一度の講座で学ぶことが多くなりすぎると逆に分からなくなるということで、頻繁に来る傾向があります。LINE の使い方相談が多く、家族や友人とのメッセージのやり取り、QRコードでの友達追加、公式アカウントの見方等、何度も講座で確認しながら、徐々にスマホに慣れて使いこなしていました。
 ガラケーで十分だったけど廃止になるからスマホに換えた等、暮らしの中でスマホって便利と思う機会の殆ど無い方々は、1, 2回くらい参加した後、カリキュラムが欲しいと要望されました。他には、1回目の講座でもスマホの色々な操作が難しいと思われて、スマホを使いたいけど何を聞いたら分からない人にとっては、2回目の講座参加まで間が空いてしまった方もいました。

 学校方式によりカリキュラムに沿った数回の授業での学習、塾方式による教わって・使って・疑問点が出てきたらまた教わってという反復練習、一定の学習後に自力で学べるテキスト等、受講者の性格や状況にとって適するものを選んでいただくことが重要と思います。学校方式でも塾方式でも、知り合いの方と一緒に参加したり、参加者同士で仲良くなれれば、スマホを楽しく学ぶ機会になるでしょう。スマホを習う空間についても工夫することで、スマホに触れるきっかけを生み出すことにつながることでしょう。

参考文献

総務省 (2010) 平成23年度版 情報通信白書
総務省 (2010) 高齢者・障害者の ICT 利活用の評価及び普及に関する調査研究報告書
総務省 (2021) 令和3年度版 情報通信白書
総務省 (2021) デジタル活用支援 令和3年度事業実施計画等
総務省 (2021)  令和3年度デジタル活用支援推進事業の実施状況
デジタル庁 (2021) 日本のデジタル度2021

須藤 智、他 (2014) 高齢者によるタブレット型端末の利用学習: 新奇な人工物の利用学習過程に影響を与える内的・外的要因の検討 1)
飽戸 弘、他 (2016) シニアのICT利用に関するライフスタイル・アプローチ(1) ― シニアの「日々の活動」と「人間関係」による類型化の試み ―
飽戸 弘,栗原 一浩,水野 一成 (2017) ケータイ・ライフスタイルの研究(4)―スマホを所有するシニアのスマホへの「関与」に影響する要因 ―
須藤 智, 大木 朱美, 新井田 統 (2018) 地域高齢者のスマホの利用学習の支援の検討 —学生が開催する講習会への参加がスマホ利用イメージに及ぼす影響について
水野一成 (2018)  シニアの ICT 利活用の検討に関する研究 -「ライフスタイル」と「ICT 利活用」を軸にした社会調査より-
飽戸 弘,近藤 勢津子,水野一成 (2021) モバイル利用のライフスタイル(4)― シニアのスマートフォン所有者における関与2―
須藤 智, 大木 朱美, 新井田 統 (2021) 大学生による高齢者向けスマートフォン講習会の設計とその効果測定

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