みなさんのおうちに大切な樹木はありますか?親や祖先が愛した庭の大木、恩師からもらった苗の育った庭木、子供が種から育てた果樹等、家と家族の物語が、樹木を大切に育てていることと思います。そのような樹木も、時と共に相続、転居、自然災害等に直面することもあります。その時、大切な樹木を移植できず、泣く泣く諦めて伐採した経験はありませんか?

 失われる危険のある植物を残して、次世代を増やす方法はいくつかあります。一例として、風雪により倒れた鶴岡八幡宮の大銀杏は、剪定したひこばえを挿し木で残しました。東日本大震災で被災した陸前高田市に残った奇跡の一本松は、森林総合研究所、住友林業が接ぎ木と実生により後継樹を育てました。他にも株分け、取り木等、それぞれの樹木の生理生態と、残したい形態に合わせて、適した方法が選択されます。植木を「生産」する植木業者の中でも、樹木を繁殖させる技術は、植木業者の一つの腕の見せ所、技術・知恵の集大成とも言えるものです。

樹種・スケジュール・本数・移植先の確認を

 樹木の繁殖技術は一つの技術にも多様な知識、長期の修練を要するので、全ての植木業者が全ての技術を習得していることはありません。まずは残したい樹木の種類をお伝えください。
 また後継樹を育てるには、植物の生理に合わせた時期に行うスケジュールも大切です。例えば大きな庭木の枝をそのまま一本残したい等、必要な形態によっては、後継樹として成長するまでに2年を要することもあります。また後継樹を何本残したいのか、後継樹を次に移植する場所はどこか、という点も大切です。暖かい場所から寒い場所へ移す場合には、一年間中間地に置いて寒さに慣れさせることで、移植可能になる樹種もあります。後継樹の繁殖だけでなく移植も含めて、ご相談ください。

一例:抵抗性クロマツを挿し木で増やす

 例えば私達が昔取り組んだ繁殖として、東日本大震災の教訓を受けて、藤沢市でも湘南海岸に広がる海岸林や湘南海岸公園、また住宅地内のクロマツを守る取組が必要とされました。以前、クロマツを枯らすマツノザイセンチュウが大量発生し、あちこちのクロマツ林が枯損する事態が発生していました。このマツノザイセンチュウに対して抵抗性を示すクロマツが全国で選抜育種・試験されていました。東日本大震災では、津波の挙動を明らかにすると共に、津波への抵抗力を高める海岸防災林の作り方も研究されていました。同時に、鵠沼の住宅地のブランドであったクロマツが相続等で次々と伐採されている状況も受けて、早く多く植えることが求められていました。

 通常クロマツは接ぎ木か実生で繁殖しますが、大量に苗木を購入する資金もなかった中で、剪定した枝を挿し木することにしました。既に一程度の技術報告がありましたので取り組んでみたところ、しっかりと活着しました。そこから苗木を増やして、必要な個所に植栽してゆきました。しかし、挿し木のクロマツは、景観保全の上で有効かと思いますが、津波波力に対する抵抗力を高めるには、苗木の質だけでなく海岸林の質として、面積と密度、間伐、各木の根を育てる必要もあります。このため将来には、挿し木で育てたクロマツが森の中でどのように成長し、地下でどのように根系が育っているか、把握する調査も必要とされます。

参考文献
森康浩・宮原文彦・後藤晋 (2004)  クロマツのマツ材線虫病抵抗性種苗生産における挿し木技術の有効性 日本林學會誌 86(2), 98-104
大平峰子・倉本哲嗣・平岡裕一郎・岡村政則・谷口亨・藤澤義武 (2006) クロマツのさし木発根性に及ぼすマツ材線虫病抵抗性,穂作りおよびさし木環境の影響 林木育種センタ-研究報告 (22), 25-34
森康浩・宮原文彦・後藤晋 (2006) マツ材線虫病抵抗性挿し木苗の生産における採穂個体へのマツノザイセンチュウ接種検定の有効性 日本森林学会誌 88(3), 197-201

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接ぎ木の植木業者紹介:矢澤ナーセリー

 色々な植木業者さんが事業を営んでますが、ここでは接ぎ木の師匠である(株)矢澤ナーセリーさんを紹介させていただきます。最近忙しすぎてホームページが更新できていないと言うほど、接ぎ木業務が入っているそうです。これまで三割程しか繁殖が成功しないと言われていた難しい品種を八割活着させる程、接ぎ木の技術を解明した植木業者さんです。少し昔の記事ですが、どのような接ぎ木品種があるのか、ぜひご覧ください。

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